第2話 アトリエ探し


あれから2,30分程、お互いの事を話した。
それと、仕事上使わざるを得ない場合を除いて、敬語や丁寧語は使わないようにしよう、 とお互いに約束をした。
いくら今日会ったばかりとはいえ、良さんには友達と言ってしまったわけだから。
だから、会話に差し支えない程度にお互いの事を確認していた。
そうこうしているうちに、清水さんが帰ってきたので、俺と彼女は良さんの所に向かった。


「あ、そうそう、そういえば名前聞いてなかったよ。何て言うの?」
「あ、えっと、瀬川由梨って言います。今22歳で、通信制の大学生してます。
瀬川って呼んでも、由梨って呼んでもどっちでもいいですので。」
「ん。分かった。俺は、高橋直也、歳は24歳。実は、高校中退なんだ。それで、ここでは アルバイトとして雇ってもらってる。それと、一緒に住む事になる孝さんと良さんって いう人達なんだけど、どっちも漁師で、俺のじいさん。凄くいい人だよ。」
「そうなんですか。」
そうやって、彼女に、島の事や住んでる人の事、天気や海の事なんて関係ない事 まで話しながら歩いた。


「ここが今住んでる所。郵便局からそんなに離れてはないでしょ。」
指さした家は、木造の2階建て。
かなり年期が入ってて、台風の時は、木が軋む音が聞こえて、毎回潰れるんじゃないかとも 思える家である。
「ただいまー。良さん、友達連れてきたよ。」
「お、ようやく帰ってきたか。もう孝と先に食べてるとこだ。」
良さんが、玄関近くの居間から、頭だけ出した。
「ほら、友達も上がってもらえよ。汚い所だけど、気にせず上がりなさい。」
そう言って、良さんはまた居間に頭を戻した。
「と、言うことで。今のが良さんね。さ、上がって。」
彼女の荷物を少し持って、二人で居間に顔をだした。


「ごめんね、わがまま言って。」
「そんな事はいいさ。家族が1人増えたって思えばどうってことないからな。」
もう食事の終わった孝さんが食器を片付けながら言った。
「相変わらず早食いだね、孝さん。健康に良くないよ。」
「俺が普通で、お前や良が遅いだけだろ。」
「そんな事ないでしょ。俺は普通だよ。あ、こっちの隅に荷物置いていいよ。」
孝さんと話しながら、由梨に座る事をすすめた。
「でも、まさか女を連れてくるとは思わなかったけどな。」
「まぁ直也も男って事だ。」
「こらこら。勝手に話を盛り上げないの。本当にただの友達だよ。」
俺は軽く咳き払いをして、改めて話始めた。
「こいつは瀬川由梨。俺より2コ下で、今、通信制の大学生やってる。
元々は中学の頃の後輩にあたるんだけど、偶然ここに来て会ったんだ。」
「なるほど。中学の頃から付き合ってるのか。すると長いな。10年くらいか。」
「こらこら。そういう関係じゃないって言ってるでしょ。・・・話すすめるよ? こいつ、1ヶ月くらい島に住んで絵を描きたいんだって。だけど宿がないから ここに居候しにおいでって勧めたのさ。分かった?」
「ちょっと待て。ネタが思いつかん。」
「もう俺ら年だからな、孝。あらかじめ構えてないとすぐには出ないぞ。」
「ネタなんか考えなくていいんだよ・・・。部屋って空いてるとこ使っていい?」
「2階のお前の部屋の横が、一番綺麗だろうからそこ使ってくれ。・・・変な事 するなよ。」
「この家でそんな事したら、俺らまで聞こえるだろ。」
「いや、漁に行ってる時にしてるかもしれないぞ・・・。」
「だからしないっての!・・・じゃあ後で部屋教えるよ。お昼は食べた?」
「うんん。まだ。」
「じゃあまず食べよっか。」
「うん。」
「じゃあ俺ら昼寝してくるわ。ゆっくりしていくんだよ、由梨ちゃん。こいつに 襲われたら全力で声出すんだぞ!」
「孝さん、しつこいって。」
笑いながら良さんと孝さんが部屋に行った。


「なんか・・・醜態をさらしたような・・・。」
「あ、別に・・・。家族団らんって感じでいい雰囲気だったと思いますよ。」
「そっか。なら安心した。あ、早速食べよっか。おいしいかどうかはおいておいてね。」
とりあえず、昼ご飯を食べた。
何を話そうか悩みながら、少しずつお互いの事や考え方を話ながら。
食べ終わった後に由梨が、
「本当にありがとうございます。」
と、改めて言い直していた。とりあえず、悪い子ではないことだけは確かなようだ。
その後、空いている部屋を由梨と少し片付けてから、俺は仕事に戻ることにした。




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