第14話 涙色の詰まったパレット


「すいません。こんな朝早くなのに無理言って・・・。」
「由梨ちゃんの頼みなら、聞いてあげないとな。」
孝さんが、船に私の荷物を乗せてくれた。
「でも、本当にいいのか?あいつを呼ばなくて。」
私は船着場で、孝さんと良さんに頼んだ通り、直也さんに顔を合わせることなく、 この島を出て行くことを決めていた。
「・・・顔見たら、別れづらくなっちゃうから。」
「そっか。まぁ気持ちは良く分かるけどな。」
良さんが、船のエンジンをかけた。
「さ、そろそろ出ないと向こうの島の船に間に合わなくなる。行くよ、由梨ちゃん。」
「はい。」
私は船に乗り込んだ。
船が岸から離れる時、寂しくてちょっとだけ泣いた。
さよなら、大切な場所。
さよなら、大切な人。
またいつか。新しい自分となって、また帰ってきます。


船がスピードを出す。
少しずつ島が小さくなっていく。
でも私の思い出は、逆に大きく膨らんでいく。
・・・ダメ。
これ以上は島を見ていることができなくなって、とりあえず海を眺めていた。
この海も、考えてみると良く見てた。
水しぶきが、何度も顔に飛んだ。
何度も当たれば、この涙も誤魔化せるのかな・・・。


「お疲れ。」
孝さんが、私でも良さんにでもない誰かへ、声をかけた。
「ほら由梨ちゃん。こっからはこいつの運転で向かうんだよ。」
前を見ると、見慣れた、本当に見慣れた笑顔が私を待っていた。
「最後くらい、俺に任せてくれてよかったんだよ。」
「直也さん・・・。」
孝さんが、直也さんの乗ってる船に荷物を移してくれた。
「ほら。」
孝さんが右手を差し出した。
私はしっかりとつかまって、無事、直也さんの船に乗り込んだ。
孝さんが元の船に戻っていった。
揺れる、2つの船・・・。
「さ、急がないと時間ないぞ。飛ばせよ。」
「分かってるよ。」
今度は孝さんと良さんが、ゆっくりと小さくなる。
二人が手を振ってくれる。
私は力一杯、大きく手を振った。
感謝・・・それから別れを表すように・・・。



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