幸いなことに封は開いてなかった。

「そ、そうよね。カズ君がそんな事しないよね。」

そう、あの手紙には『カズ君へ』とは書いてない。

書いてしまったらすべてが終わってしまうようで恐かったから。

考えてみれば情けない。もう、好きな人がいるのに決心がつかないんだから。

(いつまでも逃げてちゃダメだよね)

私は手紙に『カズ君へ』と書いた。





風邪が治った。

今日が終わると夏休みになる。

(勇気を出して)

私は手紙をポケットにいれた。



「行ってきまーす。」ドアを開けると、眩しいと思う程の、太陽の光が目に飛びこんできた。

私は大きく息を吸った。

そして、学校へと向かっていった。





「おっはよ、水野!風邪は治ったか?」

「シゲ君、おはよう。風邪は治ったよ。昨日はわざわざありがとね。」

「そりゃな。風邪で休んでるって聞いたら行くしかないだろ。」

「ははっ!優しいね。」

「そ、そんなことないよ。」

そう言うとシゲ君は照れてしまった。

「あっ、じゃ俺先に行くな。」

「うん。またね。」

シゲ君は教室まで走っていった。

そのまま歩いていくと、校門で千夏に会った。

「あれ?こんなめんどくさい終業式の日に出て来たの?てっきり休むと思ってた。」

「少しだけそうしようと思ったんだけどね。やりたい事があったから・・・。」

「何??やりたい事って何??」

・・・絶対に変な想像してるよ。

「それは・・・。」

「それは??」

「・・・後で話す。」「そこまでひっぱっといて、それはないわよ。」

千夏がムスっとした表情になったが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「絶対教えてもらうからね。覚悟だよ。」

「何を教えてもらうんだ?」

「!!」

「あっ和人君、おっはー。にしても突然現れたわね。」

「それは悪かったよ。綾乃はビックリしすぎて固まってるみたいだしな。」

「あらホント。私はこうゆうの慣れてるから平気だけどね。」

「お〜い、あ・や・の!」

「・・・っびっくりしたー!突然出てこないでよ。」

「ははっ!悪い、悪い。でも突然ってこともないと思うけど。」

「私もそんなに驚かなかったけど。」

「私はビックリしたの!!」

「そっか。そりゃすまない事した。ごめんな。」

「う〜、もういいよ。」

「ん〜怒らしちゃったみたい(^^;んじゃ、邪魔者は消えますか。」

「あっ!待って、カズ君!」



「ん?」

カズ君は立ちどまった。

「渡したい物が・・・あるの。」

「・・・じゃあ私は先に教室行ってるからね。」

千夏が歩いていった。今はカズ君と二人。

・・・私は勇気を振り絞った。

「昨日はありがと。」

「ん。どういたしまして。」

「・・・。」

「どうした?まだ風邪治ってないのか?(^^;」



こんなに想われているのに・・・。

私はあなたの死神になることしかできない。

今私のポケットの中には死神のカマのような、あなたへの最後の手紙を握り締めている。

「私、カズ君に渡さなければならないものがあるの。」

私は、汗ばんだ右手で、ポケットの中から手紙を差し出した。

・・・私はうつむいたままだった。

カズ君の顔を見るのが辛かったから・・・。

(ごめんね!ごめんね!)

心の中で、ずっと謝り続けていた・・・が、カズ君は中々手紙を受けとらなかった。

「カズ・・・君?」



俯いていたのは私だけではなかった。

「・・・ゴメン。その手紙・・・実は昨日見た・・・。

お前に悪いとは思ったんだけど・・・な。思わず。だから内容も知ってる。」

「そっか・・・。」

「ごめんな、気がつけなくて。」

「ううん!私が全部悪いんだもん!」

「そんなことないはずだよ。俺に悪い部分があったから、お前からの想いが

無くなったはずなんだから。・・・だからな、昨日ずっと考えてたんだ。

何がいけなかったんだろうな〜って。それでな、思ったんだけど、俺たち

付き合って長いだろ?だから、どこか怠慢なところがあったんじゃないかな

って思った。もちろん他にもあると思うけど・・・あんまり考えきれなかっ

たよ。・・・だから、とりあえずごめんな。」

「私が・・・悪いんだよ・・・。」

私は泣いてしまった。

泣くつもりはなかったし、泣かないようにしようと、心の中で決めていた。

それでも溢れてくる涙は止まらなくて・・・。

「・・・幸せになれな。」

彼はそう言って、私の頭を撫でて、ハンカチを渡して歩いていった。





『彼は空気みたい』



いつもそこにいるのが当たり前・・・。

辛い時でも楽しい時でも、いつも傍にいてくれる。

かと言って、束縛するようなことは絶対になく、私は『私』を保つことができた。





あの後、私はシゲ君と付き合うことになった。

ただ、心のどこかが抜けていて、彼といても自分じゃないみたいな感じの毎日が続いた。

・・・結局長続きはしなかった。

”なんだか物足りない”気持ちと、”私自身の、カズ君への思いの怠慢”

ということを、よく考えていたから・・・。

自分勝手っていうのはよく分かっている。

それでも、こんな中途半端な気持ちで付き合うのは、やっぱり良くない。

だから別れた。

ただそれだけ・・・。





「ん〜!いい天気!」

私は朝早くから散歩に出かけた。

夏なのに、朝だけ少し涼しい風が吹く。

私はこの時間が好きだった。





『Boy is Air』





結局、彼の良さに慣れてしまっただけ。

それに気がつかない、私の心の怠慢。

・・・実は、私はまだ、彼への想いが残っている。

別に付き合う気持ちは無いし、彼に彼女ができれば、それはそれで嬉しい。

でもね・・・。

もう少しだけ彼のことを見ていたい・・・。

だから、もう少しだけ・・・わがままを許してね。





[  TOPに戻る  ]